渡仏95週目 もう会えない彼女
6月12日から18日
クラス全グループの修士プロジェクトの口頭試問が終わった日、SOSを受けて彼女のアパートに向かった。
彼女とは、パリに来てから共通の友人の紹介で知り合って、特にここ数ヶ月はよく会った。旅行もした。
会うだけでなくメッセージのやり取りも頻繁にしていた。
私は連絡不精なので毎日テキストを送り合うような相手はほとんどいない。でも彼女にはあやういところがあって、連絡を途切れさせるのが心配だった。もちろんそれだけでなく、劇やオペラの感想を報告しあったり、次に会うときの計画を立てたりするのは楽しかったし、ちょっとしたこと-修士プロジェクトの愚痴だの、果実酒を漬けただの、パンジーの種を植えてみただの、その芽が出ただの-を共有するのがいつの間にか日常になっていた。
メッセージを送ると数時間以内には既読がついて返事が来るのが常だった。それなのにそのときは随分経っても既読がつかなかった。おかしいなと思いながらも彼女の家の正確な住所も知らないし、忙しい時期でもあり、その日すぐには何もしなかった。ただ他愛ないメッセージをポツポツ送った。
そしてその日、共通の友人から、彼女とメッセージをやり取りしているが様子がおかしい気がすると連絡を受けて、住所を聞き、パリの賑やかな界隈にひっそりとあるアパートへ向かった。向かっているその途中、もうすでに彼女には会えなくなっていることを知った。それでもアパートに行く。
クラスのWhatsAppグループは賑やか。なんと言っても今日で全てが終わり盛大にパーティーを開くのだから。おつかれさま!ワインを買ったよ。今日は文句言いっこなしがルール!破ったらショットだよ。今向かってるところ。何階だっけ?
どうすれば良いのかわからない。すべきことは分かっている。この留学の最終報告書を仕上げて、アパートを引き払う手続きを進め、日本へのお土産を買い、荷造りをする。今後中長期のキャリアやプライベートについて考えをまとめて根回しをする。そう、なるべく早いうちに南米かアフリカで働きたい、そのためにすべきこと。
それに、彼女に渡したくて買っていたものは誰かほかに譲る先を見つけないといけない。彼女に報告したいことがたくさんある。LINEもメッセンジャーも開けば彼女のアカウントがずっとそこにある。私は連絡不精だからなかなか流れていかない。何度開いても既読はつかない。