渡仏81週目 休暇明けのパリはストライキでごみ収集が止まっている
3月6日から12日
1週間のイースター休暇が明けて、レポートの提出、授業、ショートプレゼン、ミーティングなどなど盛りだくさん。
街中でも年金改革反対ストライキ続行中。
日曜の夕方にアムステルダムから帰ってきたら仮眠をとり、その後、レポートを終えるまで寝ないぞと集中して書き上げる。骨格はすでに組み立ていたし、旅行前から旅行中までずっと考えていたことだけど、結論部分でやや難航。いつものことながらouvertureが難しい。なんとか月曜朝6時に仕上げ、一息ついて数時間寝て、散歩。
セーヌ川で白鳥がポツンと一羽。
ルーブル美術館の中東コーナーにあったやたら怖い女性像(手のひらサイズ)。
火曜にレポート提出、水曜にショートプレゼンを終わらせて、ちょっと余裕ができた。雨模様だしストライキで交通機関は混乱しているらしいし、こんな日はいつも賑やかなところも静かなのかな、と、思い立って「ゴドーを待ちながら」のチケットをチェック。当日夜の回、2番目に安い席がさらに大幅割引されている。急遽予約。開演前には、空席が多いからと「適宜前に詰めてください」のアナウンス。
これをみるのは2度目だけど、前回は寝不足で途中意識が途切れたので、もう一度行けてよかった。案の定記憶にないシーンが。
金曜は、月末のプレゼン課題について先生と1対1の打ち合わせ。提案した具体例は悪くないとのことで、全体と詳細それぞれを詰めて再度打ち合わせとなった。
雑談でよく劇を観にいっていると話したら、先生も劇やバレエ、オペラなど行く方らしく、いくつかおすすめの演目や劇場を教えてくれた。
夜、友人を家に招いておしゃべりしていたら何やら妙に寒気がしてきて、見送ったあと熱を測ると38度4分。鼻も詰まり気味だし喉がひどく痛む。急いで寝て、翌土曜もひたすら布団のなかで丸まっている。寝て、汗をかいて、蜂蜜とレモン果汁を溶かしたお湯を(喉の痛みを堪えながら)飲んで、また寝てを繰り返し、日曜の朝には平熱をとりもどす。喉の痛みもひいた。週末に片付けておきたい課題や家事があったので、ほっとする。
夜まで家事と課題に集中して、そのあとはコメディ・フランセーズで「ゲルマントの方」観劇。
現代風の軽薄なアレンジがしっくりこなかった。例えるなら「こころ」を観るつもりが「先生のヒミツの恋物語」だったというか、「細雪」を観るつもりが「美人姉妹のコンカツ!」だったと言うか。フランス人の観客には受けていたので、私の理解が足りないんだろう。
エッフェル塔のビームが厚い雲のなかを泳いでいる帰り道。どんな劇も終演は23時ごろなので眠くて仕方がない。
渡仏80週目 フェルメールの祭典
2月27日から3月5日
イースター休暇の1週間。週の前半は休暇明けに提出のレポートを書いていた。ライシテの授業で、与えられた課題は「イスラームの宗教指導者育成をめぐる問題」。イスラム教については、義務教育で習ったこと、大学のときに少しだけ勉強したイスラム法、それから伊達聖伸先生のライシテ入門本や公開されている論文からの知識しかなく、基礎的な勉強から。そもそも宗教指導者(イマーム)の育成が問題になっていることすら知らなかった。
週の後半はアムステルダムへ。2月から開催されている史上最大規模のフェルメール展が目当て。入場には日時指定で事前予約必須なんだけど、1ヶ月ほど前に旅程を立てたときにはすでに限られた日程の夜遅くの入場枠しか残っていなかった。なので好きなときに好きなだけ入場するため、美術館の友の会に入会。
滞在中、朝昼晩と毎日通った。
「デルフトの眺望」この黄色い壁を見にきたんだ!
夜の閉館1時間前くらいからは人もぐっと減り、じっくり眺めることができて最高。そして、いくら金土とはいえ夜9時に美術館にいるような人は少し変わっていて、鑑賞の仕方もクセがあり面白い。
フェルメールといえば真珠ということで、多くの女性が真珠の耳飾りをつけていたのも、いろんな方法でこの展覧会を楽しんでいるのが伝わってきて良かった。
初のオランダ、そしてフェルメールということでいろいろ読んで予習。
それから司馬遼太郎の「オランダ紀行」。偶然にも旅行の前日に立ち寄ったパリのブックオフで見つけた。
ゴッホ美術館もアンネフランクの家も行き逃したので、またアムステルダムに来る楽しみができた。
渡仏79週目 元老院見学
2月20日から26日
クラスメートと衝突しながら課題をこなす日々、というと変わり映えしない。
課外授業でフランスの元老院見学。建物はリュクサンブール公園の敷地内にある宮殿。
何度も見ていたこの建物が実は元老院だったのだ。というか、初めて知ったのだけど、リュクサンブール公園は元老院の持ち物。だから例えばリュクサンブール公園の手入れは上院運営予算に含まれているらしい。
もともとは1600年代、マリー・ド・メディシスがイタリアから嫁いできたときにフィレンツェのピッティ宮殿をモチーフに建設された。
その後、第二帝政時代に大々的な改築が行われて、当時の面影はひっそりと小部屋に残っているのみ。
本会議場はバリアフリーとは程遠い作り。障がいのある元老院議員はいないのか聞いたら、いるから出席する時には介助が必要で大変と。
本会議場前広間。記者会見などはここで行われる。所々に掲げられているRFは何の頭文字だろう、Roi de la Franceか?Republique de la Franceか?と話していたら正解は後者とのこと。
それにしても、上院と下院が物理的に離れていると、国会審議が佳境に入ったときの移動が大変そうなどと思った。日本は同じ建物内にあるから、大臣や官僚が衆議院での委員会に出席してその直後に参議院の委員会に出席、とかもできるけど。
元老院職員として予算調査室などで10年ほど働いている人が案内してくれたので、調査室の権限なども説明があり、日本と比べながら聞いて興味深かった。
週末にはジャン・コクトーの「おそるべき親たち」を観にパリの北の方へ。「恐るべき子供たち」しか知らないぞ。。と思って調べたら、そういう戯曲を書いて、映画化もしているらしい。せっかくなので前日は映画を観てから舞台へ。登場人物は5人、息子溺愛の母親、その夫、母親の姉妹で夫のこと好きなオールドミス、甘ったれた息子、息子の恋人かつ夫の愛人。どろどろなコメディ。
オールドミスと甘ったれの息子は映画の方が断然存在感があってよかった。母親は劇の方が陰影が出ていた気がする。
演目のせいか劇場の特性か観客の平均年齢がかつてなく高い。ゴシップ好きの老夫人たち、というか。独特の雰囲気を醸し出して何だかそれもコクトーっぽい。
渡仏78週目
2月13から19日
気を抜くと朝から晩まで学校と課題だけで終わってしまうので、意識的に他のことをするようにしている。
そうして息抜きしに行ったルーブル美術館では、ミュージアムショップを欠かさない。結構なスペースを割いてアクセサリーが置いてある。絵画に描かれた装飾品や古代のものの再現、展覧会に合わせてセレクトしたコーナー、クリエイターの作品など。指輪を購入。
「朝日に導かれる勝利」のおもむき。
不穏な夕焼けのチュイルリー公園。
モンパルナス墓地の塀の向こうでは木に靴が括り付けられている。こういうの、違法な取引の現場の合図と聞いたことがある気がするけど、こんなところでまさかね。
お天気の良かった日曜日はセーヌ川になかなかの人出。
渡仏77週目 夜のチュイルリー公園
2月6日から12日
課題や人間関係でごたついている。ゆううつでも一つずつ片付けていけばいつか終わっているはずと思えるのが年の功。
それに視線を上げればパリはいつでもうつくしい。
年明けからランニングを始めて1ヶ月。本当は散歩の方が好きだけど、歩いているだけだと目標にしている歩数をクリアするのに時間がかかって仕方ないから。ゆるーく、半分は歩いているんじゃないか?ってペース。
初めて夜にランニングしてみたら、パリの石畳、というか凸凹のアスファルトで何度もつまづいて危なかった。
チュイルリー公園は意外と早く閉園するし。ネズミが走り回っているし。暗くてちょっと怖いし。何年か前、仕事で早朝深夜の永田町を通りすぎていた頃もネズミがうろちょろしていたものだった。チュイルリーのネズミは丸々とふとっていてずっと大きい。
朝の方が景色も綺麗で良い。
渡仏76週目 節分、立春、聖燭祭
1月30日〜2月5日
春学期、イントロが終わって本格的に授業が始まる2週目。
日本では節分(大豆や太巻きを食べる日)、フランスでは聖燭祭(クレープを食べる日)のこの週、課題に追われていた。木曜の授業のプレゼン担当になったので。
学期中に全員一度プレゼンをするし、初めに終わらせられて良かったと思うしかない。教員から提示された選択肢はサービス産業の構造改革、住宅供給、生産性向上。そのいずれかについてOECDから提言をする、という体。20分程度のプレゼント30分のディスカッション。
生産性向上を選んだけど、まず生産性の定義、生産性向上とは、どんな要素がどう影響するのか、各国の状況は、みたいな基礎知識を入れるのに、週末はOECDや世銀のレポートなどひたすら読んでいた。
月火に調べたことを形にしていき、水曜にスクリプトを書いて当日午前中に読み込んで練習。寝不足。
その合間に、違う授業でグループを組んでいる子から、他のメンバーの愚痴を2時間くらい聞かされたり。愚痴がなかなか終わらないので、話題を変えてプレゼンの練習に付き合ってもらった。「そこで強調したい内容はつまりAでしょ?ならこういう言い方がいいんじゃない?」「その単語の発音はこう」「この用語は一言説明が必要だと思う」助かる。でも代償として2時間の愚痴。
プレゼン以外にも、外部との共同プロジェクトの打ち合わせもあり、参考にと合計3、400ページくらいの資料が送られてきていたのでざっと目を通したり。
半年弱かける外部との共同プロジェクトは、先方からの要望で「発展途上国の公共部門におけるデータホスティングサービス導入のベストプラクティス分析」。私は良いけど他の生徒の反応はいまいち。だよね。
忙しくなる前に劇のチケットを買っていたので、寝不足でへろへろしながらもエミール・ゾラの「私は告発する」を題材にした二人劇と、ベケット「ゴドーを待ちながら」を観に行く。どちらもとても良かったが、「ゴドーを待ちながら」は寝不足がピークだったので一度意識が途切れた。もったいないことをした。
渡仏75週目 春学期のはじまり
1月23〜29日 パリ政治学院、春学期の授業開始。面白そうな授業、大変そうな授業などいろいろ。
選択科目の一つで「国家とライシテ、フランスにおける宗教」を取った。先生は内務省宗教局などでの経験がある官僚。
ライシテ(政教分離)は難しい。フランス革命から現代までの歴史的経緯は昨年勉強したけど、今日のフランス社会でのライシテの持つ意味は?ライックな国家とは?フランス人はライシテをどのように捉えている?
授業では、企業や公共サービス、軍隊、海外領土でのライシテ、カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、イスラム教、聖教会、仏教などを題材にしながらライシテの今後を展望する予定。一人一回プレゼンがあるので、パリ政治学院の生徒からどんな意見が展開されるのかも含めて楽しみ。自分のプレゼンは大変々々心配だけど、、、
日本の政教分離についても説明できるようにしておいた方がよさそうだが、できるのか?よさそうな本が見つからない。
第一回は、概要や評価方法の説明のあとは、久々のフランス流講義。ライシテの歴史について、パワポなどなく先生がひたすら話し、生徒はキーボードを叩く。概要は既知だったのでなんとかついていけた。昨年のエクス・アン・プロヴァンスでの授業が早くも生きたぞ・・・!
でも宗教関係の知らない単語がポツポツ出てくる。séculariser:(財産・人・教育を)非宗教化する、soutane:カトリック聖職者の服、évangélique:福音主義などなど
福音史家がévangélisteなのは知っていたけど、福音主義という宗派があることを知らなかった。
経済系の授業としては「プラットフォームのミクロ経済」を選択。ミクロ経済既習が前提なので次回までに一冊読んでおかなくては。推薦図書はGoogleチーフエコノミストのハル・ヴァリアンの教科書。と知ったかぶりしてみたが、初めて聞いた。この授業でもプレゼンが一度ある。プラットフォーム企業を一つ(実在でも仮想でも)取り上げて、経営戦略を発表する。
あとは、ポリシープロジェクトも始まった。数人のグループで、一学期間かけてパートナー企業と共同で政策提言書をつくる。グループの一人が勝手にみんなを代表して企業にメールを送って早くも喧嘩勃発。企業側からはなんの反応もなく顔合わせすらできていない。前途多難である。
と思っていたらようやく先方から「近いうちに初回ミーティングしよう、これから日程調整するね」の連絡。前途多難に変わりはない。
ちょっとショックだったのは、選択授業の一つで、先学期の選択授業でグループ組んだ子を見つけて笑顔でアイコンタクトを取って、相手からも笑顔が返ってきたのに、授業冒頭の自己紹介で名前を聞いたら別人だったこと。しかもアジア系。顔認識能力の低さを突きつけられた、、、