むかご日記

@霞ヶ関。2021年-2023年フランス留学(エクス・アン・プロヴァンス政治学院→パリ政治学院)

国家公務員と国際機関

大学時代の同級生など、国連で働きたいと国際関係論に進むひとがいた。また、国連職員等を目指して国際機関の公募ポストに応募するひともみてきた。けれど、途中で違う道に進んだり、希望するポストの採用を勝ち取れず諦めていくひとも多い。

 

働きはじめて、国際機関への道として国家公務員という選択肢もあるのではないか、と思うようになった。

ひとつには、国家公務員の仕事と国際機関職員としての仕事には親和性があるから。

もうひとつには、国際機関に出向する国家公務員や、公務員を経て国際機関の幹部職に就くケースが一定数あるから。

ということで、知っていることを紹介していく。

※人事関連の仕事をしたことはないので、あくまでいち国家公務員の観測範囲のはなしです。

※必ずしも、国家公務員よりも国際機関の職がやりがいがあるとか、すばらしいとか考えているわけではありません。

※ここでいう国際機関とは、基本的に国連関係機関を想定しています。

 

1.国際機関で働く一般的な方法

日本政府(外務省)は、国際機関で働く日本人を増やすため、希望者のサポートを行っている。

www.mofa-irc.go.jp

このサポートHPで紹介されているように、国際機関で働くには、空席応募、JPO(Junior Professional Officer)派遣制度、国連事務局YPP(Young Professionals Programm)の3つの方法がある。しかし、空席応募(倍率100倍以上)、国連事務局YPP(応募者5万人)の二つは、日本人が通過するのは大変困難だといわれている。

そのため外務省が用意しているのがJPO派遣制度で、日本政府が費用を負担して国際機関で2年間の勤務経験を積むことができる、というもの。少し古い数字だが2017年の応募者数は321名、通過者数は57名と約5.6倍。空席には全世界から応募があり100倍以上、YPP派遣制度は毎年5万人以上の受験者がいるので、若手日本人にとってはJPOが最も現実的だろう。

 

2.国際機関と政府、国家公務員と国際機関職員

では、国家公務員を経て国際機関で働くとはどういうことか。

その前に、まず、国際機関と政府の関係は、政府と国民・国会議員の関係に似ている

国際機関は、各国政府からの拠出金で途上国支援プロジェクトを行ったり、グローバルに通用するルール(条約)案を作成したりする。政府は、拠出したお金が適正に使用されているか監視したり、ルールが自国に利するものになるように働きかけて承認したりする。

ここでの国際機関の活動は、税金で補助事業を行ったり、法律案を作成する、自国内での政府の活動に比することができる。国際舞台での政府は、行政を監視する国民、地元や業界のために事業を誘致したり法律を作る国会議員といえるだろう。

つまり、先ほどの国家公務員の仕事と国際機関職員としての仕事には親和性があるというのは、スケールが異なれど、それぞれの組織としての役割が似通っている、というのがひとつ。

 

国家公務員と国際機関職員の親和性のもうひとつは、公務員として働く中で自然と国際機関へのつながりが生まれること、そして、公務員とはその分野のスペシャリストであり、勤務経験が国際機関職員として求められる能力に直結するということ。

国際機関にはそれぞれ担当省庁がある。UNESCOは文科省ILO、WHOは厚労省、など。担当省庁は、その分野での日本のプレゼンスを高め、自国の制度や政策を国際枠組みに反映し、自国の利益を守るために、国際機関という場を利用し、積極的に関与している。

年に数回開催される定期会合には必ず出席して、将来的な条約制定などに向けて、各国と交渉したり、実際に改正案を作成・法務チェックを行う国際機関職員に根回ししたりする。定期会合間のメールやオンライン事前調整も欠かせない。当然、国際機関の職員とは様々なつながりが生まれる。

もちろんその過程で国内のステークホルダーとの調整も必要で、さまざまな立場の人から事情を聴きとりながら日本としてどのような方針をとるべきか決めていくことになる。方針決定にあたっては都度々々公文書を作成するし、条約が締結される際には国内制度で担保するための法律・省令改正に携わる。こうして、ある分野について日本の現状と制度を知り、海外と比較し、制度改正に携わることで、国際機関で求められる専門知識と業務経験を得ることができる。

 

3.国際機関ではたらく日本人職員数

国際機関ではたらく日本人職員数は外務省がとりまとめているが、残念ながら、最新の数字にはアクセスしづらい。

 

いちばん広く取りまとめられていると思う国際機関で働く|外務省によると、2018年12月末現在、882人が国連関係機関ではたらいているとのこと。しかし、外交青書をみても、詳細は外務省がお金をだしている機関についてしか載っていない。

 ということで、個々の国際機関の日本人職員数については、各省の公表資料にそれぞれあたっていく方法を紹介する。

※国際機関のHuman resources関係の資料も公表されていると思うけど、日本政府の資料を優先してみました。日本語だし。

 

行政事業レビューといって、民主党時代の事業仕分けがもとにあるのだけど、各省庁が自分の事業について点検・見直しを行うプロセスがある。この「事業」にはもちろん国際機関とのかかわりも含まれているので、調べていくと国際機関にその省庁がどれくらいお金を出しているか、どの程度日本人職員がいるか、がわかる。

具体的には、行政事業レビューのプロセスの中で毎年作成される点検シート「行政事業レビューシート」をみることになる。各省庁の公表資料へのリンクを張ったページはこちら。国際関係の施策から、国際機関名が冠されている事業をみていくことになる。

例えば、厚生労働省の国際関係の施策のなかに「事業番号825 世界保健機構分担金」とあり、平成30年度にWHOではたらく日本人職員は31人、うちD1以上は5人となっている。

やや迂遠だが、各種国際機関における邦人職員情報へのアプローチ方法のひとつとして紹介した。

 

4.国際機関ではたらく(元)国家公務員

省庁は、JPO派遣制度と同じく人件費を政府が負担することで、各国際機関に官僚を出向させている。総合職(キャリア)が多いようだが、一般職が派遣されるケースもある。JPO制度では2年間のところ、公務員が出向すると基本的に3~5年ほど勤務することになる。

国家公務員が若手のうちに国連関係機関ポストに就くことは難しいが、その他の国際機関に派遣されることはあるし、既存のポストではなく実力で新規ポストをつくって国際機関に出向することも可能。また、国際機関や諸々のタイミングにもよるが、公務員OBとしてD職(幹部職)に就いている人もいる。

 

では、各省庁は実際のところ国際機関に何人程度職員を派遣しているのだろうか。これについても詳細な公表資料は知らないが、省庁別全体数の目安となるものがある。

政府が使用するお金については必ず公表されており、人件費も例外ではない。ということで各省が財務省に提出する毎年の予算の各目明細書をみると、各省の一般会計の初めのほうに「国際機関等派遣職員給与」という項目があり、その隣に人数も書かれている。財務省が目立って多く107人、国交省94人、農水省68人、経産省63人、厚労省40人、法務省33人、総務省19人、文科省14人など。

JPO派遣候補者になれるのは毎年50名~60名のようなので、国家公務員から出向している職員の規模が相当だということがわかる。

 

5.まとめ

学士、修士などから海外高等教育機関の正規過程で勉強し、優秀な成績を収めることができるような環境と能力があれば、国際機関で働くために国家公務員という回り道をすることはないかもしれない。

でも、そこまでの海外経験がない、語学力に不安がある、専門性を身につけられていないとか、あるいは、2年間の勤務の後の保証がないJPO派遣制度の不安定さ、などの理由で国際機関を目指すことに不安があるなら、国家公務員という選択肢を目を向けてみるのもいいのでは、と思う。